本やらなんやらの感想置き場

ネタバレ感想やらなんやらを気ままに書いています。

小川一水「アリスマ王の愛した魔物」

 

作品情報

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

作品紹介

  本作は、自分の一番好きなSF作家、小川一水さんの最新短編集です。小川一水さんが2010~12年にかけて書いた作品が4つ、書き下ろしの作品が1つ掲載されています。その中でも、特に自分の好みだった「アリスマ王の愛した魔物」と「星のみなとのオペレーター」の2作品について感想を書きます。なお、後者については、もともと星海のアーキペラゴというCDに収録されていた小説みたいです。

星海のアーキペラゴ

星海のアーキペラゴ

 

 ちなみに、一曲はyoutubeにありましたので、見てみると良いかもしれません。

 

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

 

ネタバレ感想

アリスマ王の愛した魔物

 算術が得意なアリスマ王子。国の危機に、王子は算廠を使った計算で敵を撃退する─それにより引き起こされた災厄の数は四千五百と七十一。

 最初読んだときは、なんだこれ、って思いました。いわゆる、王道のSFとは違い、ちょっとファンタジーが入っているような。単なる計算だけで、こんなにも数多の災厄を引き起こせるのだろうか。

 でも、ここで思い出したのが現在のコンピュータの話。今のコンピュータは、どんどん進歩していて、コンピュータを使ったシミュレーションをすれば、何でもわかるような気がしさえします。ある一場面についての情報を全て把握すれば、次の場面でさえも計算できるんじゃないかと(まあ、現実世界であれば、量子論的な不確実性があるから無理でしょうけど。)で、そのコンピュータが何をやっているのかというと、計算です。もともと、コンピュータが行っている計算は、論理演算であり、最も基本的な形だと非常にシンプルです。論理積(AND)、排他的論理和(OR)等々。これは、コンピュータの行っている計算であり、人間が行えるものであるから、人間を使ってコンピュータ(=算廠)を作ることができない訳がない(計算能力等々をどこまで高められるかの問題はありますが)。

 じゃあ、そんな人間を使ったコンピュータができたら、この世界のあらゆる出来事が予測できるのか。現実世界であれば難しいです。量子論やら、カオス理論やら何やらの壁にぶつかりますから。

 でも、本作の世界そのものがコンピュータ上でシミューレートされた世界だったら。

 計算により、あらゆる出来事が予知できたとしても、何らおかしいところはありません。世界に魔物が居ようが何だろうが、何の問題もありません。

 そこまで考えた時、凄い奥行きを持った作品だな、と感じました。

 

星のみなとのオペレーター

 本作のなかで、一番好きな作品。

アポロが月に飛んでからしばらくの間、宇宙はお休みをもらっていた。しかしそれも百年後にはとっくに終わって、広い太陽系はちっぽけな人間たちの活躍の場として、絶賛営業中になっていた。(159頁)

 序盤のこの文章を読んだだけで、やられたって思いました。柔らかい語り口ではあるけれど、これだけで壮大な世界の広がりを感じさせる文章です。で、単なるオペレーターの日常が描かれるだけかと思えば、約80頁の間に、並みの長編小説を越える壮大な話が含まれています。

 小川一水さんのすごいなと思う所は多々ありますが、そのうちの1つがスケールの大きな話を作るうまさです。僕がもともと、小川一水さんが好きになったのは、「導きの星」という小説です。 

導きの星〈1〉目覚めの大地 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)

導きの星〈1〉目覚めの大地 (ハルキ文庫―ヌーヴェルSFシリーズ)

 

四冊のシリーズなのですが、単なる異生物との交流の話かと思ったら、銀河全体にまで話が大きくなるストーリーで、すごく衝撃的だったのを覚えています。

 ちなみに、その後小川一水さんの天冥の標シリーズを読んだ時には、導きの星を越える作品の世界の大きさだけでなく、貼られた伏線の量や話としても面白さから、衝撃を通り越して唖然とした覚えがあります。導きの星は、1人の主人公に焦点を当てていますが、天冥の標は巻によって主人公さえも変わり時間軸も自由自在。まさに、今まで自分が読んだ全てのSF小説と比べても、桁が違うすごさでした。

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標〈1〉―メニー・メニー・シープ〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

 

 で、何が言いたかったかというと、星のみなとのオペレーターは、小川一水さんのスケールの大きな話を作る凄さが、約80頁に凝縮された作品だったな、ということです。

 また、終わり方も良いですよね。最後のウニとの交渉のシーンで、すみれは交渉を成功させたうんぬんと書くのではなく、

それから五十分で、すみれはどうにか、人類とウニを友達にしてのけたのだった。(225頁)

と、「友達にしてのけた」という言葉を選ぶセンス。好きです。

 読んでみて、すごくわくわくして、ドキドキした小説でした。

 

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