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村上春樹「街とその不確かな壁」感想

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

正直なところ、本作はそこまで自分にヒットしない作品だった。まるで、延々と伸びる滑らかなチーズを食べているような、時間が経過しない街の日々を味わっているような気分だった。確かにおいしいし、口当たりも良いのだけれど、突飛なところがないというか、刺激物にかけるというか。序盤の物語で壁の中の街が出てきたタイミングで、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」じゃん!とテンションが上がり、本書の序盤の文章の美しさに心惹かれるなど、印象的な部分はいくつかあるのだが、それでも何かもの足りないな、という感覚が拭えなかった。

第一部の話が盛り上がってきて、最後に「私」が影を見送る。そこまでは勢いをもってすぐに読んでしまったところだった。しかし、第二部は、(物語の展開上仕方なかったのだろうが)少し、冗長な感じが拭えなかった。自分の中の無意識の世界=壁の中に残ろうとした私が、外の世界に出ようとする。そのような変化のためには、子易さんとの出会いであるとか、少年との交流とかが必要だったのだと思う。物語の展開は非常に自然で滑らかであるのだが、どことなくぼんやりしているような印象を受けてしまった(最近村上春樹さんの短編ばかりを読んできたせいかもしれない。)。

それこそ、世界の終わりとハードボイルドワンダーランドや、ねじまき鳥クロニクルのような、私はこのままどんな世界に連れ去られてしまうのか、といったわくわく感は、あまり感じられず、そこまで刺激的なお話でもなかったと思う。聖者と死者が接続され、同一の物語の中で静かに共存する。どうやら今の私には、本作は繊細過ぎたようだ(高級な和食が出てきてがっかりする中学生のようなものかもしれない 。)。年を取ったら、こういう落ち着いた小説がいいんだよ、といった気持ちになるのかもしれないが。

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