本やらなんやらの感想置き場

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「アルゴ」感想:(Partly) based on a true story.

作品情報

監督:ベン・アフレック

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 ノンフィクションの映画を見るとき、普通の映画を見たときには刺激されないような感情が引き起こされる。この人物が見ている光景は、経験は、フィクションなどではない現実なのだ。登場人物の一挙手一投足がより重大なものに感じられ、先行きの見えないシーンでは一層の緊迫感を味わい、幸せな結末には心からの祝福を与えたくなる。

 冒頭で、これみよがしに「Based on a true story (事実に基づく物語).」と表示された本作も同様で。映画撮影のロケハンを装うという耳を疑うような計画。これが実際に行われたというのだから大したものだと思った。混乱の中バザールに向かうシーンでは登場人物の身の安全が本気で心配になり、店主に絡まれるシーンではけがをするのではないかと肝が冷えた。また、最後の空港でのシーンでは飛行機が離陸するまでの最後の一瞬まで、緊張した面持ちで画面を見つめていた。スタッフロールで流れる本作の役者陣と実際の写真の比較を見て、(多少の演出はあるように思ったものの)過去を正確に再現した重厚な物語だと思い満足してNetflixを閉じた。

 見終わってすぐは、概ね満足していた。普通の映画では味わえないような感覚、これがこの種の映画の醍醐味だよなと思いつつ、本作のレビューをあさる。とめどなく様々な人の感想を流し読みしながら、ふと疑問に思った。本作は、どこまでが事実に基づくものなのだろうか。(さすがにイラン革命防衛隊の最後の飛行機を車で追いかけるシーンは演出だと確信していたが)どこまでが演出で、どこまでが真実なのだろうか。

 調べてみて明らかになった衝撃の事実。

 映画では、米大使館員らがイランの首都テヘラン(Tehran)の市場で怒りを露にする群衆に取り囲まれて逃げ出すシーンや、緊張感あふれる空港のシーン、先に挙げた滑走路での追跡シーンなど、史実にはない出来事が描かれている。また、米大使館員らはカナダのケン・テイラー(Ken Taylor)大使(当時)宅に避難した設定になっているが、実際にはテイラー大使宅に潜伏したグループと、別のカナダ大使館員の家に身を寄せたグループの二手に分かれていた。
映画『アルゴ』、フィクションと史実の違いめぐり議論招く 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

 いやはや、フィクションばかりではないか。物語の山場と思われるバザールのシーンと空港のシーン。その両者はそもそも史実ではなかったのである。冒頭でBased on a true storyと表示し、実際の映像や写真をとりまぜて、いかにも全てが本物かのように装っている本作の、主なシーンはすべてフィクションだったという訳だ。

 またこのパターンかよと、私はため息をついた。この間見たホテル・ムンバイと同じパターンである。実話をもとにして映画を作るのは何ら問題がないし、実際の映像を映画中に用いることももちろん問題ない。しかし、明らかに(大筋では)ノンフィクションであるかのように偽っておいて、描かれたシーンがほぼ作り物となると気が抜ける。正直に「Partly based on a story(本作は一部事実に基づく)」と書いていてくれればもやっとすることもなかったのに。今まで見た中で、一番がっくりしたアカデミー賞受賞作品であった。

 なお、本稿は(一部)事実に基づく記事である。