作品情報
- 作者:アガサ・クリスティー
- 発売日: 2011/10/07
- メディア: 文庫
評価
☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。
ネタバレ感想
本作は、非常に衝撃的な犯人であるにも関わらず、その犯人が合理的推理によって導けるという点で、作者に全面降伏するしかない素晴らしい作品でした。いつもながら犯人を推理しながら読みましたが、全く犯人を当てることができませんでした。
初読時は、スタイルズ荘以前に5人を殺し、バーバラ・フランクリンとノートンとポアロを殺した犯人は、同一人物だと思っていました。それがまさか、それぞれの犯人が異なるとは。
スタイルズ荘以前に5人を殺したXについて、まるで想像もつきませんでした。直接的な犯人が別にいるというこれらの事件の内容が、デイジー及びアラートン少佐の殺人未遂事件のやり口と似ているなと思い、途中で読み返したりもしましたが、直接的に殺人を教唆した人物は見当たらず、お手上げでした。それが、まさかXが間接的な方法で犯意を掻き立てていたとは。確かに、直接的な方法で教唆していれば、以前の5事件で関係者として処罰されていた可能性もあった訳ですし、実際の事件の経過からしてもノートンがXという推理は合理的だと思います。ただ、普通のミステリーしか読んだことのない身からすれば、そんな間接的な殺人の方法なんて分かるかって感じでしたが。
また、バーバラ・フランクリンの死の真相について言えば、もっと分かりませんでしたね。バーバラ以外の人間が毒を入れるのは難しそうと考えましたが、バーバラが本件のように手の込んだ自殺をする理由もありません。真犯人が謎のトリックを使って毒をいれたのかと思いましたが、まさかある種の事故だったとは。
ノートン殺人事件の犯人は、まさかのポアロでしたね。長編シリーズの探偵がまさか殺人を犯すとは。度肝を抜かれました。ノートン殺害の動機は多少釈然としないところもありますが、部屋の鍵を持っていてその当時殺人を犯すことができたのはポアロだけだったという推理は、非常に合理的です。まさかあのポアロが犯人ではないだろうという思い込みを利用され、してやられたという感じです。
ポアロの死についてもしてやられましたね。まさかの自殺という結末。非常に明快で疑いの余地もありません。ヘイスティングスの思い込みと、Xが全員殺したという発想に囚われ過ぎていましたね。
本書を読み終えて、全力を出して負けた時に特有の爽やかな敗北感を感じました。もっともっとクリスティーの作品を読みたくなりますね。