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シェイクスピア「ハムレット」感想:ツッコミどころのある作品。

作品情報

作者:ウィリアム・シェイクスピア

評価

☆☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、言わずもがなの巨匠ウィリアム・シェイクスピアの作品の中でも特に名高い四大悲劇においても最高傑作と呼ばれる作品である。少なくともアマゾンの商品説明によれば最高傑作らしい。そんな本作では、さぞかし高尚で気高い人物たちが描かれているのだろうと思った。読むまでは。

 しかし、実際に読んでみると、意外と本作の登場人物はツッコミどころがあり親しみやすいところがあって驚いた。特に主人公のハムレット。その行動には結構ツッコミどころが多いなと思った。このことは、端的に冒頭と終盤を並べてみれば明らかである。

 まずは、物語の序盤、亡霊に会ったハムレットのセリフ。

よし、本からおぼえた金言名句、幼い目に映った物の形や心の印象、一切合切、今まで記憶の石板に写しとっておいた愚かにもつかぬ書きこみは、きれいさっぱり拭い去り、ただきさまの言いつけだけを、この脳の中の手帳に書き記しておくぞ。そのほかの由なしごとは消えてしまえ(中略)やい、クローディアス、もう逃れられぬぞ、さあ、わが身の守りことばだ、「父を忘れるな、父の頼みを」……(跪き、剣の柄に手をかけ)固く誓ったぞ。(祈りつづける)(本書46ページ)

 なんという言葉の力強さ、なんという決意!まさに名言というやつだろう。さぞかし、すぐに親愛なる父を殺した憎きクローディアスを殺しに行くのだろう。我が身も顧みず、復讐以外の全てを忘れた鬼となって、王を引き裂きに行くのだろうと思わせられる。

 次に、終盤でレイアーティーズに深傷を負わせた後、剣に毒が塗られていることをレイアーティーズから聞いたハムレットのセリフを見てみよう。

切先に毒まで!ーそうか、それなら、ついでにもう一度。(王を刺す)(本書215ページ)

 シェイクスピア史上の最高峰、その復讐劇のクライマックス、ラスボスのクローディアス王が死ぬシーン。その原因は、「ついで」だったのである。「ついでにもう一度。(王を刺す)」という文字列がシュールで仕方がないことは本論に関係ないため置いておいて、あれほど序盤で固く復讐を誓ったにもかかわらず、「そのほかの由なしごとは消えてしまえ」とまで言ったにもかかわらず、王を殺したきっかけは「ついで」だった。なんじゃそりゃ。結局ハムレットは流れでクローディアス王を殺しているのである。死んだオフィーリアも草葉の陰でポカンとしていることだろう。

 これは、単に翻訳の問題かもしれない。そう、これほど名作と呼ばれている作品の終わりが、こんな「ついでにノリで殺しちゃいました☆」みたいな形であって良いはずがない。そう思って原作を見てみると、この部分は英語の原文では「The point!--envenom'd too! Then, venom, to thy work. Stabs KING CLAUDIUS」と書かれており、「Then」が「ついで」に相当するのが分かる。そのため、結局、流れで殺していることには変わりがないように思う(この文言を措いても、そもそも決闘でレイアーティーズを刺した流れでクローディアス王を殺したという展開は動かしようがない。)。

 ハムレット君、もうちょっと考えて行動しようよと突っ込みたくなる。亡霊に唆されてすぐに王を殺しに行くのかと思えば、なぜか引き延ばし、狂気に陥った感を出したりして、その後王を殺しに行こうとしたものの、祈っている王を見て「救いのない悪行に耽っているのを見たら、そのときこそすかさず斬って見せるのだ」(本書128頁)と言って先延ばしにし、しかし突然妃の部屋で隠れていた王を殺そうとして間違えてボローニアスを殺し、ボローニアスを殺した後にイギリスに行けとの王の言葉にはあっさり従ってイギリスに行こうとし、結局イギリス行きの船から帰ってきて王と再会してもすぐに殺そうとはせず、決闘の流れでハムレットは王を殺すのである。本書の解説では、このようなハムレットの行動を格好よく「自由である」として褒め称えているものの、フラフラしていないでもう少ししっかりしてくれよハムレット君と思わないでもない。

 ただ、このようなツッコミどころが、矛盾の塊としての人物像が、ハムレットをより魅力的な人物としているのは間違い無いだろう。人間は、人間であるが故に、普通は割り切れない。首尾一貫している人間などなかなかいないからこそ、ハムレットのこの思い、悩みこそが彼を超人ではなく一人の人間として浮かび上がらせ、本作を名作たらしめているように思えてならない。

 うん、なんだまあハムレット君。君ならまだ友達になれそうな気がするよ。映画の中のスーパーヒーローなんかに比べたらね。