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川上弘美「神様」─ほんわかする短編集

作品情報

神様 (中公文庫)

神様 (中公文庫)

 本作は、ドゥマゴ文学賞紫式部文学賞を受賞した作品です。

 なお、「神様」をアレンジした「神様 2011」という作品が存在します。

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、とてもほんわかした作品が多い短編集で、すごく癒されました。えび男くんの話やら、コスミスミコの話やら、何か大きなことが語られるわけではないけれど、平凡できれいな日常に関するお話の数々を読んでいると、ほっとしました。

 特にお気に入りだったのが、くまが登場する「神様」「草上の昼食」の二作品。

神様

 この短編集の名前自体が、「神様」というしっかりしたタイトルだったので、こむずかしい物語かと身構えていましたが、そんなことはなくて良かったです。

 第一文。「くまにさそわれて散歩に出る。」(9頁)なんじゃそりゃ。熊。おそろしい熊と散歩に行くという話なのでしょうか。

 第二文。「川原に行くのである。」(9頁)いやいや、わたしが気にしているのはどこに散歩に行くかという話ではなくて、熊と散歩に行くとはどういうことなのかということなのだけれど。

 どんどんと読んでみると、このくまはどうやらいいやつだと分かる。おまけに紳士的なくまだと分かる。エスコートしてくれるし。お土産用の鮭をとってくれるし。昼寝のためのタオルを貸してくれるし。

 だんだんと、くまと散歩にでるということに違和感がなくなって、こんなくまと散歩できたらいいなあとのんびり考えるようになる。こんな素敵な午後を過ごせたら、どんなに良いだろうかと考える。

 短編を読み終わって、不思議と満ち足りた気分になる。なんだか幸せな気分になる。

 最後に、くまの神様ってどんなものなんだろうかって、あの雲の形は何に似てるでしょうと誰かに聞かれたときみたいに、ぼうっと考えてみたのでした。  

草上の昼食

 くまの生活とやらも、なんだか難しいことの連続みたいで。相変わらずエスコートしてくれる、紳士的なくまなのだけれど、今回はお別れのお話らしい。

 くまの作った料理について読みながら、くまの料理ってどんな味がするのだろうかと想像してみる。きっちりとしていて器用なこのくまのことだから、きっとおいしく作られているのだろう。

 くまはくまで、人間と合わせられないことに悩んでいるらしい。人間が人間に合わせるのだって大変なのだから、くまが人間に合わせるのはもっと大変なのだろう。そう、価値観とかいろいろ違いそうだし。

 くまの神様と人間の神様が別の存在であったら、くまと人間が別の存在であるのは道理であって。というより、くまと人間が別の存在であるからくまの神様と人間の神様は別の存在であるのだけれど。こんなに違った存在が、一緒にすごすのは大変なんだなと思う。

 そして、どんなに紳士的なくまでも人間社会で生きられないあたり、人生ってたいへんなんだなと、ぼうっと考える。

 人間がくまに合わせて、鮭の皮をよろこんで食べるようであったなら、こんな別れもなかったのかとちょっぴり思う。でも、人間が川で捕った鮭をそのまま食べられないように、異なっている以上は、人間とくまは合わせきることはできないんだよね。

 どうしたって、くまとのお別れは避けられなかったのかもしれないです。

 なんだかちょっぴり切なくなったお話でした。

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