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映画「キング・オブ・コメディ」感想:ルパートのジョークのような作品

作品情報

監督:マーティン・スコセッシ

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 自分が生まれてもいない時代の映画を見る。それは時に喜びであり、時には期待外れであり。いつの時代も色褪せずオリジナリティを保ち続ける2001年宇宙の旅のような作品もあれば、面白いけれど取り立ててすごいなと思わない作品もあったり。当時としては斬新な表現が後の作品に吸収され一般化され、また、その当時の人しか分からない空気感を僕が理解していないからこそ、後者のような作品の凄さが分からないのだろうということは、頭では理解しているのですが。

 本作は、どちらかというと後者の作品でした。僕にとっての本作最後のルパートのジョークのように、面白いっちゃあ面白いけれど、取り立ててありがたがる作品ではないように僕には思いました。

 ロバートデニーロの演技が素晴らしいのは分かります。ルパートという一人の人物が、さも実在するかのように当たり前に、自然に提示されていました。しかし、その演技に感嘆するより前に思ったのは、ルパートは狂った男だなということでした。自らの異常さに何ら気がつかないまま全力前進猪突猛進。ジョーカーも真っ青な狂気は、僕を完全に映画から置いてきぼりにしました。淡々とした狂気が一番怖いという事実を本作は体現しているような気がします。

 一風変わったストーリー展開。逆切れルパート、ナイスデニーロ。そこから生まれた決断がジェリーの誘拐というのが、また常軌を逸しています。おもちゃの銃で脅して、手に入れたのはキング・オブ・コメディの座。

Better to be king for a night than schmuck for a lifetime.
どん底で終わるより、一夜の王でありたい。

 言いたいことは分かります。細く長くより太く短く生きる人生。それを望んでいるのだろうと。しかしながら、その結果がルパートのそこまで面白くもないジョークに過ぎなかったというのが何とも。破茶滅茶滅茶苦茶なストーリー。ラストシーンもルパートの妄想なのか現実なのか。幻想だろうが現世だろうが、ふーんという感想で終わりそうなので、ネットでその議論について深く調べてみる気力も出ませんでした。

 きっと、1982年の公開直後に見ていたらきっと素敵な作品だったのでしょう。斬新な表現、時代を風刺するようなナイスジョーク。しかし、その後に生まれてしまった僕が、本作の真の魅力に気づくことは、きっと永遠にないのでしょうね。