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ナイツ塙宣之「言い訳 関東芸人はなぜM-1に勝てないのか」書評と感想:お笑いが少し笑えなくなる作品

作品情報

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)


※以下は本作のネタバレを含むので、注意してください。

書評と感想

 本作を読み終わって真っ先に思ったことは、これからはお笑いが少し笑えなくなるなということだった。

 昔から、お笑いに対して勝手なイメージを抱いていた。努力せずに面白い、天賦の才を持った人がお笑いをやるのだと。そこには理論なんてものはなく、ただ人としての面白さのみが、お笑いの世界では大事なのだと。

 そんな偏見を抱いていたからこそ、本書を読んで驚いた。ナイツの面白いネタの背後には、経験に裏打ちされた確固たる理論があるのだということに驚いた。あのすっとぼけたヤホー漫才。それが生まれた背後には試行錯誤、PDCA。その誕生秘話を読むと同時に、テレビで見ている芸人たちの一定数も、このように理性的な努力を続けてきたのだと思い至った。

 また、本書を読んでいてお笑いには様々な理論が存在することにも圧倒された。例えば、大会の本番前にはあまり練習しない方が良いだとか。漫才の中に幾つの数のボケを入れるとか。センテンスが短い方がボケの数を増やせて有利だとか。関西弁と標準語のお笑いでの優劣であるとか。

 これらの全てが、とても新鮮だった。こういうものが読みたいからこそ、本書を買ったと言っても過言ではない。しかしながら、本書を読んでいて、お笑いが少し笑えなくなったなという思いがとめどなく溢れてきた。

 決して、お笑いに幻滅したという訳ではない。お笑いの背後にある「理性」に興味が引かれてしまい、お笑いそのものが少し笑えなくなってしまうんだなと思っただけである。そして、「理知」という、お笑いの新たな側面を発見できて嬉しい気持ちがある。

 このネタの背後には、数多くのトライ&エラーがあったことだろう。数多くの劇場でネタを試し、客の反応を見てそれをまた作り変えてきたのだろう。そして、理性によって自らの武器を開発し、テレビの世界へと躍り出てきたのだろう。

 お笑いを見ながら、芸人たちのサクセスストーリーを背後に感じられるようになった気がした。