本やらなんやらの感想置き場

ネタバレ感想やらなんやらを気ままに書いています。

橋本陽介「物語論 基礎と応用」感想

作品情報

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

感想

本作は、物語を読む上でのツールを解説してくれるものであり、今まで物語の構造というものをあまり考えたことのなかった私にとって、非常に興味深い書籍だった。それは、今まで「文法」という存在を知らずに英語を学んできたところで、突然文法の概念を与えられたときのような衝撃があった。

まず、「人は行為に従属する」というコンセプト。今まで、「〇〇の作品では主人公のライバルキャラとしてこういう存在がいて、〇〇という作品ではこういうライバルキャラがいて」という形で何となく認識していた姿が、「ライバル」という役割で認識することができるようになり、さまざまな作品に共通項が見出せるようになってきた。それは、例えばスラムダンクの桜木花道と流川楓、ハイキューでいう日向翔陽と影山飛雄の姿が、「主人公」と「ライバル」という形で繋がる。

また、「可能性の論理」というコンセプトを知って、今後の展開を意識的に複合的に想像するようになった。例えば、私立探偵が真犯人の元へ単独で向かう。この時、探偵は真犯人に繋がる情報を明らかにするのか、それとも妨害されるのか。銃が登場したならば撃たれなければならないのか、それとも撃たれずにそのままとなるのか。これらが同時に達成される可能性はどうか、うんぬんかんぬん。それにより、想像を裏切られたときの物語の驚きというものが、より一層新鮮に味わえるようになったように思う。

そして、物語の叙述のスピードや、直接話法等との関係性。誰が語るのかといった問題。こういうツールは、物語を読む際に非常に有用であるように思われた。

本書の理論編を読み終えて、私は興奮していた。このような分析のツールが、果たしてどのように作品の分析に生かされるのか。そこで分析編を読むと、少し拍子抜けした。体系だって、というよりも手当たり次第に文献を挙げつつ、作品の紹介に終始しているような印象を受けたのである。「この理論によれば、このように考えられる。これを物語に当てはめると、こうなる」という最後の部分が、場当たり的に描かれているようにも思えてしまう。それは、「これを物語に当てはめると、こうなる」という部分が、物語論について無知である私にとっては、作者の感想としか受け取ることができなかったということが大きいのだろう(そして、そこを体系だって説明することは難しいのだろう。)。

本書の真の面白さは、実際に提示された理論を踏まえて物語を自分で分析し、そして再び読み返すというステップを経ない限りわからないものであるように感じた。正直、上記のような分析のツールが、どれほど役に立つものであるのかも分からない。一旦時間を置いた上で、再読してみたくなる書籍であった。