評価
☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。
ネタバレ感想
本書を読んで、著者の服部正也さんは、まさに勇者だと思った。凡百の小説の主人公では敵わない、知力、忍耐力、誠実さ。本書を読むだけでも、服部さんの芯の強さ、優しさが伝わってくるようだった。そんな、服部さんは、小説のキャラクターを超えた勇者であったように思う。
服部さんが訪れた当時のルワンダ。それは、まさに異世界といっても良い環境だったと思う。服部さんの話が理解できる人間がいなかっただけでなく、テクノロジーについても格差があった。また、当然、文化的にも大きな違いがあっただろう。今では当たり前となったインターネットがない時代。現地の生の情報を得られる手段は限られていたのであるから、ルワンダに行くまではルワンダの環境がまったく想像もつかなかったはずだし、実際に現地についてからの衝撃はより一層大きかっただろう。そんな異界の地でも、服部さんは一切ひるまない。
空港ビルすらない、ルワンダの簡素な世界。そこでの毎日は、本書で記載されたもの以外にも、驚きの連続だっただろう。その中で、服部さんが少しずつ中央銀行を変え、果てにはルワンダの経済政策、ルワンダ自体をも変えていく過程は驚きの連続だった。たった一人の人間が、金融政策という武器を用いて、ここまで大きく国を変えられるものなのか。着実に改革を続けながらも、ルワンダ人と交流し続け、ルワンダ人に希望を見出し、外国人のみが利益をむさぼる国から、ルワンダ人そのものが輝ける世界へと変えていった。異国の地で勇気をもって庶民のために改革を続けていくその姿は、まさに勇者そのものであると思った。
そんな服部さんがいかに信頼されていたかという点は、本書の随所からうかがい知れる。例えば、「なんだ、中央銀行で起案したのか、それなら安心」といって帰っていった国会議員たち(本書216頁)。服部さんのまじめさ、仕事に対する真摯さが、ルワンダの大統領その他のルワンダ人の信頼を勝ち取っていたことがよくわかるエピソードである。そんな状況であれば、服部さんが私利を貪ることは、いともたやすかったに違いないし、延々とルワンダの中央銀行に居座って、長年独裁体制を築くことも簡単だっただろう。しかしながら、服部さんはそんなことはみじんも考えない。むしろ、「外国人が中央銀行総裁となっていることの異常さをつねに自覚し、国民出身の総裁実現という正常復帰を一日も早くするよう心がけるべきだと思」っていたのである(291頁)。
なんという無私の精神、なんという慈愛の心だろうか。同じ状況に立たされて、同じことができる人が昔であれ、今であれ、何人いることか。フィクションではなく、現実世界に生きる勇者となるためにはどうあるべきか学べるという点で、本書は非常に貴重な書籍だと思った。