私の恋が、生まれもせずに死んだ。
「好きな人ができたので、お会いすることができなくなりました。」
そんな言葉と共に。
お互い恋人を探している状況下。ただメッセージを交わしただけの関係性。初めて会う予定の今週末に、どんなことを話そうかと考えていた矢先だった。
恋愛というやつは、どこまでも身勝手なのだ。そんなことは分かっていても、いざ自分の身に降りかかってみると少し狼狽える。
好きな人ができたから会えないと連絡をくれるあたり、本当に良い子だったのだなと思いながら、私の胸は締め付けられた。ただの一度も会ったことのない彼女を想って。
この気持ちは、きっと失恋の悲しみではない。私の恋は、始まってすらいないのだから。たった十数回のメッセージで人を好きになれるような純真さを、私は当の昔に失ってしまった。
夕日が沈む時のような、ぼんやりとした胸の疼きが治まらない。頭の中をこねくり回して、この感情にふさわしい言葉を探した。
「切なさ」という単語が見つかった時、これだという納得があった。
これは、切なさなのだ。始まりもせずに終わった、私の恋に対しての。
私は、生まれもせずに死んだ私の恋について考える。世の中の、生まれもせずに死んだ数多の恋に思いを馳せる。世間で語られるラブストーリーの背後には、いくつの恋の死体があるのだろう。
歴史にifがあったならば、彼女が好きになった人と出会わなければ、私と彼女は恋人となったのだろうか。そんな可能性は僅かだっただろう。袖が触れ合う程度の薄い縁しかなかった私たちには、そんな結末が妥当だと私の理性が囁く。
そうとは限らない。私の心が呟く。恋は理屈ではないのだからと。
何れにせよ、詮無きことだ。あの時こうなればこうなっただろうなんて、誰にも分からない。
分からないことだらけの世の中で、おそらく確かなことがある。これから一生、私は彼女と会うことはないだろう。言葉を交わすこともないだろう。偶然によって紡がれた、蜘蛛の糸のようにか細い関係性。それが切れた今、私たちの道が交わることはない。それでも、思わずにはいられない。
最後に「ありがとうございました」と連絡をくれたあなた。その人生に幸多かれと。