作品情報
- 作者: 綿矢りさ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/04/05
- メディア: 文庫
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なお、本作は第130回芥川賞を受賞した作品です。
評価
☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。
ネタバレ感想
この作品を読んで、感じたものは痛さ。登場人物が痛々しいと言いたい訳ではない。痛むのだ。私の心が。
この小説を読みながら思い出す、自分の昔のスタンス。あるいは今のスタンス。いつも賑やかな人たちが、他愛のない話をしているなと思う。自分はそれとは違う、中身のある話をしたいと思う。そういう人たちと自分は違うと思う。それで一定の距離を取る/取られる。そんなスタンス。
そんな風に、自分と彼らの世界は違うのだと、認めるスタンス。自分の方がより価値のある生き方をしているのだと、自負するスタンス。ただ、そんなことを思っていても、ただただ賑やかにする彼らが、時折羨ましくなる。
複雑なのだ。うまく心にできないのだ。「私」が作中の彼らに抱く気持ち。私が現実の彼らに抱く気持ち。羨望の思いがないと言ったら嘘になる。ただそれを素直に認めたくない。少し、悲しくなってしまうから。
ただ同時に、諦めもある。そのような集団に入っていったところで、違和感は残り続けるのだ。高校で「私」が絹代たちのグループに居ることを諦めたように。結局のところ、合う合わないはある。それはどうしようもないことなのだ。
「私」がにな川を蹴りたくなる気持ちが分かるような気がする。グループから外れた人同士として、彼らとは違う存在として、「私」は、にな川を認めたかったのだと思う。普通の人たちとは違う、特別な、にな川。でも、彼は違う。大層な人間でもない。オリちゃんに執着するだけの、ただの人。自分の姿が、にな川に少し重なる。
結局のところ、自分はにな川と変わらないのではないか。そういうやるせなさ。そこから湧き出る破壊衝動。同時に、自分よりも下の存在が居るのだという安心感。暗い気持ちが体を動かす。「私」は、彼よりもマシな人間なのだと。ただ同時に、「私」は親しみを感じても居る。お見舞いに行ったりなど、ただのクラスメートにしたりはしまい。彼を見つめ続けたりはしまい。「私」の言葉にできない衝動がつまる、彼の蹴りたい背中。
複雑な気持ちがこもった一蹴り。はっきりしないからこそ、これからの世界が広がる一蹴り。「私」はこれからどこに向かうのか。一抹の爽やかさが伴う、未来への一蹴り。