本やらなんやらの感想置き場

ネタバレ感想やらなんやらを気ままに書いています。

ポール・デイヴィス「生物の中の悪魔 『情報』で生命の謎を解く」書評

作品情報

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

書評と感想

生物と情報。それらは全く異なったもののように思える。生身の実体を持つ生物と、0と1で構成されるイメージを持つ情報。それらは、何のつながりもないように思える。そんな2つの関連性を、鮮やかに描き出したのが本書である。

生命とは何かということについては、昔から様々な議論がなされてきた。例えば、生物とは自己複製を行うシステムであるとの考え方がある。また、生物は動的平衡にある流れであるとの考え方もある*1

そんな中で、作者は本書の中で以下のように高らかに宣言する。「生命と非生命を分け隔てるのは、「情報」である。」(32頁)

作者のこの言葉は、以下のように分かりやすく説明されている。

遺伝をできるだけうまい言葉で表現するなら、「前の世代に関する『情報』が次の世代に受け継がれる」となる。古い個体に似せて新たな個体を作るには、その情報が必要だ。この情報は、その個体の遺伝子の中にコードされており、生殖プロセスの一環としてその遺伝子が複製される。したがって生物学的繁殖の本質は、継承可能な情報が複製されることだといえる。(32頁)

生命が情報を上手に扱っているのはDNAに限られない。作者は細胞の中で情報を使った高効率の推進機構(キネシン)、不完全性定理に基づくセルオートマンの予測不可能性など、情報を切り口とした様々な観点から生物を説明していくのだ。

本書を読んだとき、いかに生物というものを知った気になっていたかに気付く。本書によれば、生命を理解するために現在使われている学問は多岐にわたる。物理学、化学、生物学、計算科学、数学、量子力学...。私たちにとって身近な光合成を理解するためにすら、量子力学が必要となる。そして、これらの学問を駆使しても、なぜ生命が非生命と異なっているのかについては、分からないことだらけなのである!作者は、「生物を物理学の中に適切な形で組み込むには、新たな物理学が必要である」(278頁)と締めくくっている。

生命とは何か。それを深く考えてみたい方にとって、本書はまたとない一冊となるだろう。