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トーマス・トウェイツ「人間をお休みしてヤギになってみた結果」感想

作品情報

なお、ヤギになった作者の姿は以下の動画からご覧いただける。

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

感想

 誰しも、一度はヤギになりたいと思ったことがあるだろう。

 僕はない。そして本書を読んで、大多数の他の読者と同じくヤギにはなりたくないと思った。

 傑作だった作者の前作であるゼロからトースターを作ってみた結果。このような一世一代のプロジェクトの次を考えるのは大変だろうなと思ったところ、案の定作者自身も一発屋にならないか心配になっていた時期があったようだ。非常に共感できる。そこで、作者は象になろうと決めたそうだ。非常に共感できない。

 この作者のアプローチを見て、前作と同様に天才かと思った。前作と同じテーマを攻めれば、二番煎じにならざるを得ない。そこで別のテーマを探すところまでは分かるが、象になるという点は全く分からない。そして、シャーマンに会いに行って、象ではなくヤギになろうと決める。これも全く分からない。言葉の意味が分かるが意味が分からないテーマを土台と据えて、本プロジェクトは走り出していく。

 そもそも、ヤギになろうとするアプローチがこれほどあるということに驚いた。工学、脳科学、解剖学その他もろもろ。最新の知見を取り混ぜながらカオスに進行していくプロジェクトで、人間をお休みしようとせっせと働く作者の姿を読んで、僕は頭の中で働きアリを想像していた。

 本書を読んで一番印象に残っているのは、ヤギにも序列がありストレスを抱えて生きているという部分だった。「人間は大変だ。将来の不安もあるし。だからヤギになろう。」という展開に突如降りかかる落雷。結局のところ、一切衆生生きることは大変なのだ。みんな違ってみんなつらい。だったら人間で良かったと心底思う。

 本書を読んで、いかに生物が精巧にできているかが分かった。人間だから何でも凄いという訳ではなく、それぞれに素晴らしい部分があり、生物って素敵で不思議だなと感じた。ヤギはヤギらしく、人は人らしく。それぞれお互いの持ち場で、頑張って生きていければ良いと思う。

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