評価等
☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
原題:Vertigo
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。
ネタバレ感想
本作は面白かった、だけれどあまり乗りきれなかった作品だった。おそらく、映画史上に残る傑作だとかいう評判を、あらかじめ見すぎたせいもあるのだろう。マージョリーの扱いがなんだかなーというのもある(こう思うのは現代人の私が見ているからか。)。あと結末。
序盤から中盤にかけては、ゆっくりとしたテンポで描かれつつも、印象的かつ美麗なシーンがたくさんあり、見終わった今でもありありと思い出せるくらいだ。スコティとマデリンが初めて会う幻惑的なシーンが素敵なのは言うに及ばず。それまで尾行のやる気がなかったスコティが、人妻のマデリンを見かけたあとは熱心に尾行し始めるのは少し滑稽でもあったが、マデリン役のキム・ノヴァクの美しさを見ると一定の説得力があった。そして、繰り返し、繰り返される尾行シーン。ロサンゼルスの認識できないけれど異なる街をぐるぐる回る感じ。オカルトチックな話にいぶかしむも、まあ映画だしなと思って見続ける(そこが伏線になっていたのも見事)。少し集中力が落ちてきたあたりでマデリンが飛び込んだのも衝撃的だったし、そこから物ありげなマデリンが塔から飛び降りるまではとてもハラハラした。まさにサスペンス。ここで主人公の「めまい」が効いてくるのかと膝を打ったものだ。
ここまでは、時間をかけつつも美しいシーンがいくつもあり、ああ良い映画だなあと思ってみていた。そしてその後のスコティ役のジェームズ・ステュアートの演技ときたら!本気で心配したくなるぐらいにうつろな瞳。これまでの紳士的な姿とは対照的な姿は、マデリンを失った苦しみを凡百のセリフで表すよりも明快だった。スコティが本気で心配になった。ここまで来て、だからこそ映画史上に残る傑作だと評価されてきたのだと腑に落ちる。
何か違うなと思い始めたのはその後。マデリンを追い求める主人公。それは分かる。マデリンによく似た(というかマデリンとされていた人と同一人物の)ジュディに対し、マデリンと似た服なりなんなりを着せようとする主人公。ここまでくるとよく分からない。脳が理解を拒絶する。だからこそ良い。スコティに対する生理的嫌悪感とドン引きする気持ちを抱えながらも、こういうものが見たくて映画を見ているんだなと思う自分がいる。物語が加速する。教会にジュディを連れていく主人公。増大していく狂気。登る階段。めまいを克服できた主人公。意外とこいつ冷静なところもあるんだなと思う。どうなるんだ、どうなるんだと思いながら最上階にたどり着く。そしてスコティとジュディの対決、サスペンスは最高潮に!
そして、暗闇から修道女が現れると、マデリンは驚いて落下死してしまうのであった。なんでや。てっきり、狂いに狂った主人公が、狂気に飲まれてマデリンとジュディを混同させながら殺してしまうのかと思った。どんどん積み上げられていく狂気のジェンガのような映画の結末としてはぴったりだろう。あるいは、最後にスコティとジュディが愛によって和解してハッピーエンドになるのかとも思った。ありきたりではあるが納得感はある。罪と免罪だ。または、スコティとの会話で自責の念に駆られたマデリンが、自死を選ぶ。これはこれであり。業の償還という感じ。もみあった結果、スコティとジュディがなんやかんや両方とも飛び落ちる形になっても良い。まっとうな悲劇だ。それまでに十分な爆薬は用意され、あとは火がつけられるだけの状態になっていたのだから、とても腑に落ちる結末だ。
しかし、現実的には、突然出てきた修道女に驚いて、ジュディがおっこちて終わる。確かに予想はできないエンディングではあるけれど、もうちょっとならなかったのか。そんなしょぼい終わり方でよかったのか。神に奉仕する修道女を見て、己の罪を自覚したジュディが落っこちたと解釈できなくはないとは思うものの、映像上は単に人にびっくりしておっこちちゃって死んじゃったおっちょこちょいさん☆という形でしかない。これでは主人公が追っていた「マデリン」とジュディが同一人物だった意味がなくなってませんか。ジュディが「マデリン」と同一人物だったことを明かされて終わりでよかったのではないか。そこから後の何十分かはなんだったんだと思わざるを得なかった。その何十分かは面白かったし、実際にその時間帯のスコティの気色悪さも心にきた。全体的に見て良い映画だった。中盤までの盛り上がり、心神喪失かつ狂っていく主人公も見ごたえがあった。よかった、よかったのだけれど、すごく釈然としない気持ちがのこる。ああ、なんだったんだ、この映画と。最後のシーンで落ちたけど落ち着かない映画だった。
関連記事>>>hon-yara.com