作品情報

- 作者: 新川直司
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/12/07
- メディア: Kindle版
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評価
☆☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は全巻のネタバレを含むので、注意してください。
ネタバレ感想
本作は、最後まで読んで、思わず涙してしまうような美しい物語でした。あまりに素敵なお話だったので、全巻読んだ後にそのまま最初から読み直しました。そこで、今回は全巻の内容を踏まえた上で、公生とかをりの関係を中心に、4~7巻の感想を書いていきたいと思います。
4巻
公生のコンクールでの出番の直前。
だって有馬くんは演奏家だもの
きっと針は動き出す
時間は動き出す
前に進むと信じている(127頁)
かをりの公生に対する深い信頼が伝わってくる一節ですよね。
5巻
演奏の途中、崩れ落ちそうになる公生。そこで思い出す、ケッヘル番号265、きらきら星変奏曲だというかをりの言葉(28頁)。アゲインからの再演奏。君のための、君のためだけの演奏。
公生は、「君と交わした言葉一つ一つが 星のように降りそそいでくる」と想います。
この星というのは、将来死んでしまうかをりを暗示しているんでしょうね。死んで自分には手の届かない存在になってしまうかをり。それでも、公生のことを照らして続けてくれるかをり。
演奏を聴いて、かをりは呟きます。「君がいるよ 有馬公生君」ずっと憧れだった小さい頃の公生が、ついに戻ってきたことにかをりは気づきます。「届くかなーー届くといいな」公生はかをりを思いながら呟きます。しっかり届いていたよと、言ってあげたくなりますね。
話は変わり、ガラコンサートへの招待状が届きます。もう一度公生と演奏できる喜びが溢れた姿のかをり(158頁)。でも、「どうする?」と、公生に聞く時には、断られることを恐れてか表情が読めなくなります(161頁)。
ガラコンサートの曲は、「愛の悲しみ」に決まります。このタイトルは、この曲は、かをりと公生の関係、本作そのものを暗示しているようですね。
「あなたを落とした私なんか バイオリニスト失格なのに ごめんね もう少しだけ私と一緒にいてね」(170頁)「もう少しだけ」という言葉に、自らの寿命を知ったかをりの悲しさに満ちています。
その後のかをりと公生と蛍のシーン。こういう1つ1つのシーンが、かをりの死を暗示させて辛いんですよね。
「何を支えにしたの?」「君がいたんだ」憧れの公生にそう言われても、素直に喜べない。「ぼくがいつもそばにいて助けてあげられるとは限らないんだよ」考えてしまうのは、自分が死んだ後の公生のことでした。
6巻
公生がかをりと自転車で帰るシーン。二人は星を見上げて帰ります。何気ない日常に見えて、かをりにとっては、凄く大事な思い出だったことが、かをりの最後の手紙で分かります。もう、二度とこんな時を過ごせないかもしれない。そうと分かっていても、周囲には何事も内容に振る舞える強さが、同時に悲しさにもなっていますね。
そして、始まるガラコンでの有馬の演奏。かをりとの出会いで染められたカラフルな世界を、公生は一人で奏で始めます。
7巻
演奏後に紘子たちは不穏な会話をします。「悲しみが彼を成長させるのだとしたら それはーー 鬼の通る道だ」「公生が進むのなら 失って進むのかもしれない」と(91~94頁)。ただ、全巻を読んだ上で読み返すと、この恐ろしげな言葉は希望でもあることが分かります。かをりの死は決して無駄なものだったのではなく、公生の糧になったことを暗示しているのですから。
病室、公生たちが帰った後。たくさんの本を目の前にして、「こんなに読む時間ないよ」と死を覚悟したかをりは呟きます。そこで手に取ったのは、いちご同盟でした。(106頁)

- 作者: 三田誠広
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1991/10/18
- メディア: 文庫
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その後、かをりはいちご同盟を台詞を暗記するほど読むことになるのですが、それも大好きな公生がいちご同盟を読んでいたからでしょうね(107頁)。公生のガラコンのブログ記事をかをりが読み上げるシーンの直前でも、かをりはいちご同盟の本を投げ捨てています(118頁)。
病室のシーンは続きます。「聴きたかったな 君のピアノ また一緒に弾きたかったな」。かをりの目に浮かぶ涙。滲み出る悔しさ。死への絶望。
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