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冲方丁「マルドゥック・アノニマス 6」感想:ようやく。

作品情報

本作は、冲方丁さんのマルドゥックシリーズの第3シリーズ、マルドゥック・アノニマスの第6巻です。

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作も本作で面白かったのですが、ようやく物語の時系列がきちんと前に進んだことが何より嬉しかったです。3巻の終わり、ウフコックとバロットの再会。これでようやく、最高のコンビの活躍が見られるんだなとワクワクしていたら、物語はいきなり過去に戻り。過去のエピソードもそれはそれで面白かったのですが、ウフコックを囚われの施設から脱出させるのに何巻かかるんだと思わざるをえなかったのも事実です。話がまた過去に戻り始めた瞬間に、本作でもまだ敵の施設から脱出できないんだなと若干絶望しながら本作を読んでいましたが、次回からはようやく敵の施設外で物語が未来方向に進みそうです。

 結局、ウフコックがガス室から脱出して、敵の施設を出るのに3巻かかりましたね。マルドゥック・アノニマスはページ数も多いので、おそらく第一シリーズのマルドゥック・スクランブルマルドゥック・ヴェロシティよりも多くのページ数がかかっていたでしょう。随分と長い間旅してきたものです。だからこそ、ウフコックと離れるシーンでのバロットの気持ちにすごく共感できました。ようやくここまできたのに、ようやく助け出せたにもかかわらずまた去ってしまうのか。ウフコックとバロットが再会してから、読者としても3年近く待たされて、え、まじか、ずっとバロットのそばにいてくれよと思いましたが、すごくウフコックらしい決断で最終的には納得しました。

 それはさておき、本作は物語の結末に向けて役者陣が仕上がっている感じがたまりませんでしたね。じっくりと時間をかけて成長し単なる武力だけでなく交渉力でもハンターと対等に渡り合えるようになったバロット、ついにシザースの頸木から自らを開放しつつあるハンター、ついに正体を表してきたキングことノーマ、ボイルドやクリーンウィルといった懐かしき面々。マルドゥックシリーズの総力を上げて終わりに向かおうとしている感が凄いです(かと言って、ここから4冊ぐらい続いても全く驚きませんが。)。燃えますね。いやもう、早く続きを読ませてくれ。

 本作は、それぞれの勢力がうまいこと機能して入り乱れていたのが非常に面白かったですね。前巻まででハンターがシザーズの一員となったと分かった瞬間に、魅力的なハンターがやられてしまって物語が単純化されてしまうのかと残念に思っていましたが、そんなことはありませんでしたね。むしろ、敵側は相変わらず一枚岩ではなく、元気よくさまざまなグループがそれぞれの利益の下に動いているのがリアルでワクワクします。また、敵に追い込まれるハンター側にも共感し始め、敵を一手に引き受けるバジルの頼もしさにも、親しみを感じるようになってきました。これは読者の均一化と呼んでも良いかもしれません。

 また、頭脳戦と言う意味でも今作は面白かったですね。法と武力の二重戦争が繰り広げられているのも面白いですが、純粋な交渉シーンも凄かったです。今だに、マルドゥックシリーズのなかでは、マルドゥック・スクランブルのカジノシーンがテクノロジーと人類の融合を見せつけられて圧倒されて一番好きです。しかし、本作のハンターとの交渉のシーンもそれを思い起こさせるくらい、知的に刺激されました。僕は銃を撃ったこともろくに戦ったこともないので、どうしても戦闘シーンがどれぐらい凄いのかと言うのが実感できないところですが、本作の交渉での心理戦を見て、そのレベルの高さが実感できて圧巻でした。もう、バロットはギフトがなくてもロー・ウォーリアーとして十分やっていけそうですね。そんなバロットの将来が今から楽しみでもあります。

 まだまだ先が見通せない6巻。果たして、ハンターは、ノーマは、シザースは、バロットたちの敵なのか味方なのか。予想もつかずドキドキです。今までの刊行ペースからすれば、おそらく次の巻は冬ごろでしょう。気長に、楽しみに待とうと思います(とか言いつつ、3日後ぐらいには本作の続きが掲載されているSFマガジン4月号を買ってる気がしないでもない。)。

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