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ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」感想:Cost of Genius

作品情報

ネットフリックスオリジナル作品

監督:バズ・ラーマン

なお、本作には原作が存在します。実話ではありません。

評価

☆☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 僕はあまりドラマを見るようなタイプの人間ではありませんが、間違いなく本作は今まで見たドラマの中でもベスト3に入る作品でした。一人一人の顔がすぐ思い出せるような存在感抜群の登場人物、タイムマシンに乗って過去に戻ったかのようなクラシックな魅力溢れる衣装・背景、心の底まで揺さぶられるストーリー。どこを切り取っても1流の作品だったと思います。そして、何よりも主人公のベス役のアニャ・テイラー=ジョイの美貌、演技力、迫力。本作を見た人は誰しも、彼女の魅力に心奪われたのではないかと思います。

 本作は、いろいろな人が似たようなことを言っているように、ヒカルの碁と似通っている部分があったように思います。どちらも同じ知的スポーツを題材にし、天才が登場し、質の高く熱い人間ドラマが繰り広げられる。そして見終わっても大してルールが分からないままというところまでそっくりです笑。一対一の知的勝負だからこそ伝わる凄みが、両作で表れていたような気がします。

 さて、本作のテーマを振り返ってみましょう。ネットフリックスのメイキング動画によれば、本作は「Cost of Genius」を描いた作品のようです。Geniusのスペリングに若干の不安を覚えるほど(そして時に間違えるほど)の凡人であるところの僕からすると、フィクションの世界のベスに限らず、棋士藤井聡太さんや羽生結弦さんなどはまさに別世界の人間で、ポテチを食べながら、天才として生きるってどんな感じなんだろうと、羨ましがったものです。そんな、のほほんとした僕にとって、Cost of Geniusというコンセプトは、驚きであり発見でした。

 本作のベスは、やたらと生活が荒れていきます。ドラッグから始まり、アルコール、異性関係。雪崩がどんどんと勢いをましていくかのごとく、増えていく依存度。見ていてどんどんと怖くなりました。この依存症は、天才であるからこその孤独感によりもたらされた側面もあるでしょうし、自らの実力を高めるための過酷な努力によりもたらされた側面もあるでしょう。対等かと思ったボーイフレンドたちも、ベスの才能の前にはたじたじで、自ら離れていってしまう。ベスと対等にやりとりできる人間が、世の中にどれほどいるのか。ベスに対して引かずにいてくれる人間がどれほどいるのか。凡人も凡人で大変なのと同じように、天才も天才で違った大変さがあるんだなと、ベッドで寝転がりながらドラマを見終えて思いました。

 ただ、本作では最終回できちっと天才への救済も示されていましたね。仲間との絆を確認するようなシーンもありましたし、ジョリーンとの友情は一生続いていきそうです。ドラックだのに嵌って自傷を繰り返す、切り捨てられる存在に過ぎないポーンであったベスが、仲間たちとの絆と経験を糧に自分を見つめ直して、ボルコフとの最後の試合でクイーンへと成り上がる。ボルコフとの戦いは、象徴的で素晴らしいシーンでした。1話を思い出し、ベス、大きくなったね、頑張ったねと言いたくなりました。

 最後に、僕がクイーンズギャンビットで一番好きだったシーンの話をさせてください。これもまた最終話で、ベスが老人に対し「ぜひ一局」と言うシーン。にこやかに笑うベスと老人の表情から、彼らが本当にチェスが好きだというのが伝わってくると同時に、こうやってチェスは現代まで面々と引き継がれてきたのだなと感じました。ベスも将来、シャイベルのように、次世代へとチェスの襷をつないでいく姿が想像でき、物語の終わり方としては極上のものだったと思います。

 本作は、ろくにチェスは分からないけれど、誰かに「ぜひ一局」と言いたくなるような素敵な作品でした。ひとまず、ルールを覚えた上で、シシリアンディフェンスとクイーンズギャンビットの組み方を覚えようかなと思いました。