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上原ひろみ「SAVE LIVE MUSIC Final」@東京国際フォーラムの感想

ツアー情報

開催日:2022/12/17 18:00-
場所:東京国際フォーラム 出演者:上原ひろみ×矢野顕子 / 上原ひろみザ・ピアノクインテット(上原ひろみ、西江辰郎、ビルマン聡平、中恵菜、向井航)

感想

上原ひろみさんたちが作り出した夢のような一夜から一日、私はまだ演奏に圧倒され続けている。ただ聴きに行っただけなのに、その場にいられたことそのものが誇らしくなるような素晴らしい演奏だった。

本演奏会は2部構成。まずは、上原ひろみさんと矢野顕子さんとのコラボレーション。矢野顕子さんの演奏を生聴くのは初めてだったが、なんとも不思議な世界観だった。「ラーメン食べたい」からのコラボレーション。矢野さんの歌声は、気持ちがリラックスするような歌声で、その背後で鳴るピアノは超絶技巧。かと思えば、「こんこんスリーブス」「リンゴの唄」のアレンジ。新と旧、日本語と英語、躍動と平静。そこから生み出される「楽しい」という純粋な感情。矢野さんがMCで「聞いていて楽しいと思う」といったことをおっしゃっていた言葉のとおり、わくわくしっぱなしだった。

その中でも、2曲目に「Dreamer」のアレンジを聞けたのはうれしい驚きだった。上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクトのアルバム「ALIVE」からの一曲。アンソニー・ジャクソンさんとサイモン・フィリップスさんという、一流の演奏家たちのリズム隊に、上原ひろみさんの正確無比なピアノが乗っかる、リズムが非常にタイトな極上の演奏。上原ひろみさんの曲の中でも大好きな1曲に、連弾と歌が合わさると、ここまでマッチするのかと、僕の中の"Dreamer"があっという間に塗り替えられるような演奏だった。

そして圧巻の第二部、上原ひろみザ・ピアノクインテット。私にとっては、SAVE LIVE MUSIC RETURNS~PIANO QUINTET~で生の演奏を聴いてから、2回目のライブだった。あの時は、まだ Silver Lining Suiteが世に出る前。これまでの常識では考えたこともないようなピアノクインテットに、度肝を抜かれた覚えがある。また、クラシック畑の人にこんな曲を演奏させるなんて、すごく攻めるな、演奏している方も大変だろうなと思いながら聴いていた。

そのライブと比べて、昨夜のライブは、まさに次元が違った。上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクトの演奏を聴きこんでいた私にとって、正直、SAVE LIVE MUSIC RETURNS~PIANO QUINTET~では、上原ひろみさんを除くピアノクインテットのメンバーは、曲に置いてかれてしまっている印象を受けていた。一生懸命に弾いているような印象も受けた。それは当然のことだろう。一流の陸上選手に、いきなりサッカーをやらせるようなもののような気がするからだ。

それが、昨夜は全く違った。曲に置いて行かれるのではなく、曲という波を乗りこなしていた。あれだけの超絶技巧の曲を、たやすく乗りこなし、楽しんで演奏する。上原ひろみさんと向井さんのリズムキープに、上原ひろみさんとアンソニー・ジャクソンさんの演奏が一瞬ダブった。

まず、Silver Lining Suiteの4曲。圧巻としか言いようがない。Silver Lining Suite: Isolationで一人ずつ登場してくる演奏に、胸を高鳴らせたあとでの怒涛の4曲。上原ひろみさんの演奏が素晴らしいのはもちろんのことだが、私は向井さんの演奏にくぎ付けになっていた。いや、チェロでここまで細かいリズムキープができるのかと。うごめくベースライン、他の演奏者がきらびやかに演奏するなかで、確固たる土台を築きあげていた。かと思えば、ソロのパートでも非常に聴きごたえのあるソロをするし、呆然としっぱなしだった。

上原ひろみさんと向井さんのしっかりとした土台の上で楽しげに活躍するほかのクインテットのメンバー。西江さんの演奏は、もう綺麗すぎて、なんでしょう。私にはどう頑張っても魅力が伝えきれませんという感じ。そこにビルマンさんと中さんの演奏が加わって、皆さんの作り上げるSilver Lining Suite: Driftersの和音が美しいこと、美しいこと。アルバムよりもずっと一体感があり、繊細で、躍動的で。Silver Lining Suite: Driftersが終わった段階で私はもう満足しきっていた(Silver Lining Suite: Driftersが終わった段階でスタンディングオベーションをしている人を見つけて、だよな、だよなという気持ちになった。)。しかし、幸せな時間は終わらない。そこからどんどんと演奏が盛り上がっていく。

Silver Lining Suite: Fortitudeは、とにかく楽しかったという印象しかない。ピアノが刻むリズムに、自然と体が動く。今まで向井さんが築き上げてきた確固たるリズムを、今度は上原ひろみさんが引き継いで始まる。そして、途中から観客みんなで手拍子をしたのが、非常に楽しかった。この素晴らしい演奏の一部となれる喜び。今、ここにいるからこそ味わえる一体感。第一線の音楽家たちの音楽の一端を担えて、理屈ではなく心の底から喜んでいたと思う。ただただ、うれしかった。このライブに来れてよかった。本当に良かったと強く思った。

Jumpstartのあと、上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクトのMoveのピアノクインテットアレンジも素敵だった。サイモン・フィリップスさんのドラムの幻聴が聞こえてくるかのような繊細なリズム感。ドラムとベースを使っても、ここまでリズミカルに演奏できる奏者が、日本に何人いることか。

曲が終わって、そわそわし始める。アンコールは何がくるのだろうか、矢野さんとピアノクインテットが組み合わさって何をやるのかと思ったら、まさかのMoonlight Sunshine。今までとは打って変わって、すごく穏やかになる。そこに矢野顕子さんの優しい歌声。ああ、よいライブだったな。良い一日だった、良い一年だったと思った。そして、演奏会が終わってしまうのかと悲しい気持ちになってしまった。いつまでもこの演奏会が終わらなければよいのに。

と思ったら、うれしいサプライズ!最後のRibera Del Duero。いや、もう興奮しきっていたし、演奏者のクオリティも凄すぎて何がなんだかという形であるが、その中でも西江さんが際立っていた。ソロの途中で上原ひろみさんと向井さんの近くに座る演出が面白かったのはさておき、演奏・ソロのクオリティが段違いだった。ビルマンさん・中さんのギターソロと思わんばかりの興奮するようなインプロビゼーション、ビオラとバイオリンの限界を超えていくようなソロに浮足立っていたところ、そこに西江さんですよ。もう全部持っていかれた感じがしたし、血が沸き立つようなソロだった。例えるなら、サーフィンしながら軽やかにトリプルアクセルを決めるような演奏だった。

ここで生まれた以上のライブ音楽は、もう生まれてこないんじゃないか。そんな、ピアノクインテットの演奏だった。また、上原ひろみさんと、その仲間たちであれば、もっと素敵なものを作り上げるんだろうと確信させる演奏だった。

改めて、本演奏会に聞きにいけて本当に良かった。一ファンとして、心の底から、上原ひろみザ・ピアノクインテットのアルバムを、1枚でも、2枚でも、何枚でも出してくれることを祈っている。そして、願わくは、またライブの場でピアノクインテットの皆さんにお会いできるといいな。

最高の夜でした!