作品情報
- 作者: 藍内友紀,パルプピロシ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2018/01/24
- メディア: 文庫
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作者による通称は、「星ボク」です。*1
評価
☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。
ネタバレ感想
本作を読みながら、神条との逃避行を続けて、このままいい感じのハッピーエンドで終わるのかなと思ってましたが、最後にどんでん返し。結局主人公は脳を取り出され、星を堕とす人工衛星となったのでした。完。
最初読んで、えええって驚きました。せっかく良い感じに終わらせそうだったのに、わざわざ人工衛星になるエンドにしなくても、と。結局、主人公は救われないまま終わるのか、とも。
ただ、読み終わって少し考えてみると、これが一番ベストな終わりだったんだなと感じました。
登場人物たちについて
今作の登場人物たちはみんな病んでます。
まず、主人公の霧原。霧原は洗脳され、星を撃つ自分は星であり、星を愛しているのだと思い込んでいます。(257頁)
神条は、母から受けた虐待やハヤトから受けた影響のために、霧原を所有することに固執します。以下のように思いながら。
霧原は、要るんだよ。霧原が、要るんだ。俺が、あいつを造ったんだ。俺のものなんだ。だから(260頁)
キスをしようが告白をしようが、基本的に神条は、心の奥底で霧原をモノ扱いしていました。終盤心変わりをしているかもしれませんが、根底はここから始まっています。
次に、ハヤト。ハヤトは、自分だけが神条に認めてもらうために、霧原を切り刻んで脳を取り出し、人工衛星としようとします。(311頁)
そして、社会自体も病んでいます。<スナイパー>たちに人権を与えようとも思わず、人として扱っていません。そして、<スナイパー>たちの寿命を大幅に縮めてでも、地球を守ろうとします。小さい子たちを洗脳した上で、その人生や寿命さえ奪う。完全に狂った社会です。
そんな状況下で、いくら主人公と神条が逃げたところで、真に幸せな終わりなど迎えられることはできないでしょう。主人公は死に、神条は主人公をさらった重罪を問われ、ハヤトは死んだ主人公の脳をとりだそうとし、社会もそれを容認する。
霧原と神条が逃避行をして終わるのは、形としては綺麗でしょうが、実質的にはバッドエンドになるのです。
本作の終わり方について
結局、霧原は神条を守るため、<スナイパー>の道にとどまることを選択しました。これは、最初主人公がスナイパーでありたいと思うのとは異なった動機でした。
人間とは異なる存在である<スナイパー>達は、<スナイパー>であるということ以外にアイデンティティを有しませんでした。だからこそ、主人公は<スナイパー>であることに執着します。<スナイパー>でなければ、存在理由がない。そうだと思うように、洗脳されてきたのです。
しかし、霧原は、神条に恋し神条に認められることで、<スナイパー>でない自分という存在を認め、1人の個人として生まれ変わったのです。神条が霧原をさらいに来るのを受け入れた際に。
もはや<スナイパー>である必要がなくなった霧原。しかし、霧原は神条を守るために、再び<スナイパー>として生きることを決意します。美しく、気高い決断です。
そして、脳だけを取り出されて人工衛星になることで、霧原は好きなだけ星を堕とし続けることができるようになりました。神条は罪を問われることもなく、霧原とより多くの時間を過ごせます。ハヤトは自らの研究を実証できて万々歳ですし、社会としても地球を救えるのですから文句はないでしょう。
これこそが、本作の状況下で可能な限りのハッピーエンドだったのでしょう。
一人の少女をモノ扱いし続けるというこの終わり方が、いかに残酷なものであったとしても。