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渡辺誠「昭和天皇のお食事 」感想

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

本作は、食という観点から知的好奇心を刺激されるような良い本だった。渡辺さんの軽快な切り口から、天皇向けの食事に対する一流の心遣いが読み取れる。例えば、ジャガイモを完全な球体として剥く必要があり、転がして曲がってしまえば捨てられる、であるとか、玉ねぎを一枚一枚剝いてから切るであるとか、自分が料理を行う上では一度も行ったことのなかった料理技法やこだわりが、随所に現れていて興味深かった。

また、どのような人が天皇家の料理番になるのかという点も面白かった。そもそも、天皇家の料理番となるからには、よそのお店で一流のシェフになってから、その中さらに一流な人のみが天皇の料理番になるものかと思っていた。それが、20代の若者を雇って料理させるものだとは考えたこともなかった。ただ、大量に料理を作ることもあるし、天皇家流の料理を伝えるという意味でも、このように若者を雇って修行させるというのは合理的なんだろうなという気がした。

本書を読みながら、渡辺さんが、昭和天皇や今上天皇のことを非常に敬愛していたというのが様々伝わってくる。柏餅の葉っぱを食べてしまったり、おかずが口に合わなくてふりかけをかけて召し上がる昭和天皇のお姿を想像される。あまり耳にすることのない、天皇家の生き様。心が暖かくなるようなエピソードがいくつも含まれていた。

しかしながら、本書を読むにつれて、食という一面だけであっても、天皇家は大変なのだろうな、というところが伝わってきたように思う。確かに、一流のシェフが毎日作る料理は素晴らしいのだろうが、庶民的な私としてみれば、マクドナルドや牛丼のない世界というのはあまり想像できない。また、昔から濃い味付けを食べることがないことから辛いものやわさびはあまり好まれなかったという記載を見て、やはり、天皇の食事のバリエーションは庶民よりも狭いところがあるのではないかと思った。その日にマックを食べたいからマックを食べる、ということにはならないのだろうし、エスニックが食べたいからパッタイをお昼に食べるということはなかなかできないだろう。さらに、予算的な制約があるし、料理人たちの準備もあるので簡単に料理をリクエストするわけにもいかない。そのため、料理をリクエストする際にも、気を使ってリクエストしなければならないのではないかとも思った。

このような高級な世界と庶民の食べ物の世界。その両方が経験できるのが一番よさそうであるものの、なかなかそこまでうまくはいかなそうだ。少なくとも、しっかりお金を稼がなければ、食の広大で深い世界は探求できなさそうだなと感じた。