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映画「ジョーカー」感想:「かわいそう」の押し付け?

作品情報

Joker (Original Motion Picture Soundtrack)

Joker (Original Motion Picture Soundtrack)

監督:トッド・フィリップス

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、アーサー・フレックがバットマンシリーズのヴィラン「ジョーカー」になった経緯を背景の要因から懇切丁寧に描いているがゆえに、ジョーカーが「かわいそう」という感想を押し付けられているように感じました。アーサーがジョーカーとなった要因のうち、社会構造などの外部的要因に目が向けられてすぎており、アーサーの自由意志による選択という要素が薄くなってしまったかのように感じたのです。

アーサー・フレックがジョーカーとなった外部的要因

 話の前提として、アーサー・フレックがジョーカーとなった外部的要因を整理してみましょう。

 まず、アーサーは幼い頃に養子に出され養母の交際相手から虐待を受けます。

 その虐待や遺伝子が要因となってか、アーサーは脳などが損傷し突然笑い出してしまうという精神的疾患にかかってしまい、何種類もの薬を飲まなければならなくなりました。また、アーサーは妄想や幻覚の症状を持っています(このことは、トークショーで人気者となった描写や隣人と不自然に仲良くなった描写が入ったり、脳卒中で意識がほぼないはずの母親と監獄で対話しているシーンが入ったりしていることから明らかです。)。また、アーサーは他人の感情を理解する能力が乏しく、いつも笑うタイミングが人とずれたり、気になった相手を何のためらいもなく尾行したりしてしまいます。

 そのような障害を抱いていたアーサーは、周りの人々からの白い目や暴力、襲われているにも関わらず無視する群衆の存在によって孤立し、苦しんでいました。また、母親の介護や貧困それ自体によって精神的、肉体的に追い込まれていたことも疑いがないでしょう。

 しかし、アーサーは、市の援助によるカウンセリングや病院費用の援助、仕事によって、かろうじて社会につなぎとめられていました。また、母親の存在もアーサーにとって心の支えになっていたはずです。

 しかしながら、これら全ての支えは、作中で粉々に破壊されます。まず、市からの援助は全て打ち切られ(社会構造の変化)、アーサーはコミュニケーションや治療の機会を奪われます。また、仕事も理解のない同僚や上司によって奪われます。加えて、母親も自らに嘘をつき裏切っていたことが作中で明らかにされ、アーサーは全ての支えを失います。

 そのような空白を埋めたのが、アーサーが犯した殺人を富める者への復讐と勘違いし、アーサーを褒め称えた群衆です。また、そのような群衆を生み出した貧富の差に原因があるとも言えるでしょう。このような群衆に導かれ、自らの中の虚無を埋めるように、アーサーはどんどん暴力的な行為に傾倒していきます。

 これらの要因が合わさり、ジョーカーが生まれます。それを象徴しているのが、アーサーによる母親殺しのシーンであり、赤子を象徴するかのような自宅で下着姿になっているシーンであったのでしょう。

「かわいそう」の押し付け?

 本作で「かわいそう」の押し付けだなと感じたのは、上記の要因について詳細に描写しているために、ジョーカーの自由意志による選択と責任という点が薄くなってしまっていると感じたからです。ジョーカーによる殺人はいつも唐突であり、殺人シーンがカットされるなど被害者への受けた被害がクローズアップされることもないため、それぞれの殺人の決断の背後にある理由はあまり語られていないように感じました。その分、上記の外部的要因にスポットが当たるのです。

 確かに、上記の外部的要因はジョーカーの殺人という選択に結びつくは結びつくでしょう。しかし、障害を持っている方を含め、世の中のほとんどの人は、上記のような要因を抱えながらも懸命に生きています。襲われたからといって、威嚇もせずにいきなり銃をぶっ放したりもしません。障害だからしょうがないよね、ジョーカーはかわいそうだよねと語りかけてくるような本作には、非常に違和感を感じました。

 何かを伝えるためには、何かを切り捨てなくてはならない。上記の外部的要因に焦点を合わせるために、ジョーカーの意思決定とそれに対する非難の描写を薄くしたという判断は正しいものだと思います(そもそも上記の僕の解釈自体が誤読だという可能性もありましょう)。

 それでもなお、映画を見て今思う一番の感想は、なんだか気に食わないな、というものです。役者陣の演技や脚本を含めクオリティが高く、良い映画だと思います。それでもなお、僕は、気に食わないなという自分の感想を抱き続けざるを得ないのです。

※本作の解釈について、「信頼できない語り手」という観点からの面白い説明があったので紹介しておきます。簡単に言えば、本作はほぼ全て(又は大部分)ジョーカーの妄想だと解釈できるのではないか、といった話です。@tonka_chiさんの伏せ字ツイート | fusetter(ふせったー)