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映画「道」感想:本作のリアリティについて

作品情報

道 [DVD]

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  • ジュリエッタ・マシーナ
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監督:フェデリコ・フェリーニ

本作は1957年のアカデミー賞外国語映画賞を受賞した作品である。

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

本作は、ただ画面が賑やかなだけの作品にはない、ずっしりとした重みがあったように思う。本作では、俳優陣の卓越した演技も合間って、それぞれの人物がそれぞれの人生を本当に歩んでいたような気がした。本作はフィクションである以上、当然そんなはずはないのだが、それでもヒロインのジェルソミーナが、ラストシーンで涙を流したザンパノが、物語の途中であっさりと殺されてしまったイル・マットが、この世界のどこかで生きていたかのような気持ちがしてならないのだ。ふとした時に、この世界には存在しないはずの彼らの表情が、リアルなものとして思い返されるのだ。

本作で登場人物は、道を間違え続ける。ザンパノから逃れることもせず、さりとて彼を変えることもできず、役に立たない小石としてただ置きざりにされてしまったジェルソミーナ。行く先々でトラブルを起こし、大して歩み寄ることもせずジェルソミーナを手放してしまったザンパノ。ザンパノを挑発し続け、ジェルソミーナを救うこともできず、挙句の果てに殺されてしまったイル・マット。本作にはただただ誤りの連なりがあり、贖罪はなされず、それぞれがそれぞれの絶望に浸り、終わる。本作では、地球上に跋扈するご都合主義の物語の数々とは真逆の冷たい世界が繰り広げられ続ける。

だけれども、いやだからこそ、本作は魅力的なのだと思う。例えばジェルソミーナ。DV夫に捕まってしまい、「私がいなければ」と共依存に陥ってしまったかのようなヒロイン。例えばザンパノ。身近な人の大事さを、失ってから初めて気づいてしまう男。例えばイル・マット。挑発行為の果てにある危険に思いつくことなく、その場の享楽を求めた結果悲劇に見舞われた綱渡士。どれもこれも、現実世界で、人が時に陥ってしまう袋小路であるように思う。だからこそ、これらの登場人物は、凡百の映画とは比べものにならない程のリアリティを有しており、人々を惹きつけるのだと思う。

本作に救いはない。死んでしまったジェルソミーナとイル・マットは当然のこと、ザンパノも延々と後悔と懺悔を繰り返しながら一人孤独に生きて死んでいくのだろう。失われたものは二度と戻らず、祈りはもう届きようがない。過ちを正す機会はなく、ああすれば良かった、こうすれば良かったと、登場人物の無念だけがこの映画の中に残りつづける。そんな登場人物の一人一人が、その後悔が、将来のことなど何も分からない闇夜を突き進む私たちに、天に浮かぶ星のごとき光で我々が歩むべき道を照らしてくれるような気がしてならないのである。

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