本やらなんやらの感想置き場

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「第三の男」感想:無様。

作品情報

監督:キャロル・リード

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

本作は、非常に素敵な作品だった。ハラハラさせるようなストーリー、斜めを多用し本作の不安定さを強調するような効果的な構図、モノクロの良さを存分に引き出した光と影の対比、卓越した俳優陣の演技。特に、初めて登場した時のオーソン・ウェルズ演じる“第三の男”ハリー・ライムの表情ときたら!そのシーンだけでも繰り返し観たくなるような、そんな印象的なシーンが目白押しだった。

そんな中、あれっと思ってしまうのが主人公ホリーの行動である。最初は探偵役として、友人のハリーの死の真相を真摯に追い求めていたホリー。それが、ハリーを見つけたとたんに行動原理がよく分からなくなる。当初、20年来の親友だということもあってハリーを見逃そうとしていたホリー。それが、出会ったばかりの(しかも恋人ですらない)アンナ・シュミットを救うためにハリーの逮捕に協力する。しかし、真相がアンナにばれて怒られると、今度は俺は部外者だ、手を貸せないという。けれども、ハリーによる犠牲者を見させられてまた意見を変えて、逮捕に協力しようとする。しかし、地下でハリーを追い詰めた時も見逃すかどうか(撃つかどうか)で逡巡し、最終的にハリーがうなずいたことでようやくハリーを撃つことを決意する。ホリーは、手首が360度自由自在に回転するのではないかと疑いたくなるスピードで掌返しを繰り返している。たまたま主人公演じる俳優が格好良いから様になるものの、信念も何もあったもんじゃあないこの振る舞いは、無様ですらある。

しかし、この主人公のくるくるとした態度の移り変わりや無様な姿は、本作の欠点でもなんでもなく、むしろ本作の大きな魅力の1つである。例えば、カサブランカハンフリー・ボガートのように、一本気に格好良く生きてみたいと思う人は多いだろう。しかし、映画の中ではなく、スクリーンを隔てた向こう側の現実に生きる我々は、友情、恋愛、正義等々の様々な価値の間で板挟みとなって、そんな風にまっすぐとは生きられず、泥臭く生きる他ないことも多い。

このことが象徴的に現れている、本作のラストシーンは完璧だった。ハリーの葬式を終えて、空港へ向かうホリーは、あれだけ怒られたにもかかわらず、アンナとまたうまくやれることを期待して、飛行機のフライトを蹴って車から降りる。落葉が舞い散る中、ゆっくりと少しずつアンナはやってくる。何かの予兆、ロマンスを感じ取るには十分な舞台が整った後、アンナは・・・ホリーに一瞥もくれることなく、ただ去っていくのである。それを見送るホリーの姿は、とてつもなく無様で、みじめで、格好悪く、だからこそ人間味に溢れている。そんなホリーの姿を観て、アンナの歩み去っていった先の世界と我々の世界は、この世のどこかで地続きに繋がっている気さえしたのである。