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「マトリックス レザレクションズ」感想:一応復活はした。問題はその先だ。

作品情報

監督:ラナ・ウォシャウスキー

評価

☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 昔大好きだった作品、マトリックス。その続編である本作の出来は、悪くはなかった。一度終わりを告げたマトリックスシリーズは、本作により一応の復活を遂げ、更なるシリーズを続ける土台を得た。問題は、これから(本作の興行収入が良ければ作られるであろう)5作目以降の物語がどうなっていくかであるように思った。

 本作の序盤(ゲームとしてのマトリックスでのシーン)は、これだよこれ、というシーンが多かった。いわゆるマトリックス的なアクションが続くシークエンス。マトリックスの世界から離脱するための装置が電話からウィンドウになっていたり、登場人物がスマートフォンを使っていたりと、現代的なアップデートがいくつか行われてはいるものの、画面で繰り広げられる戦いは、私がマトリックスの4作目として期待していたとおりのものだった。

 そこからゲームクリエーターとしてのトーマス・A・アンダーソン(ネオ)の話が始まると、少し肩透かしをくらってしまった。マトリックスのトリロジー(マトリックス、マトリックス リローデッド、マトリックス レボリューションズ)が、この世界ではゲームとして構築されていたことになっており、メタ的に話が進んでいく。スポンサーからの制作への強い圧力がかかりつつ、マトリックス的なものに追い詰められてしまうゲームのマトリックスのクリエーターたるネオの悩める姿は、映画のマトリックスを生み出したラナ・ウォシャウスキーの姿にそのまま重なる。

 途中で挟まったマトリックスとは何か、という問いかけ自体は少し面白かった。人によって、マトリックスは啓示であり、哲学であり、戦いであり、ガンバレルであり、又はバレットタイムであるのだろう。これは、ゲームとしてのマトリックスの世界をどう再構築するかという話であると同時に、映画としてのマトリックスの世界をどう再構築するかという話でもある。単なるリブートではマトリックスらしくないという発言は、映画としてのマトリックス4(マトリックスレザレクションズ)を単なるリブートよりも凄いものにしてやるぞという意気込みが感じられて良かった(そして、脳裏で一瞬スターウォーズエピソード7の惨状が思い浮かび、あんなことにはならないのだと安心した。)。本作は良かったのだ。そう、ここまでは。

 ただ、その後の展開を見るに、このメタ的なマトリックスの分析や、本作の意気込みにどこまで意味があったのかというのは疑わしい。結局、本作でやっていることは、1作目のストーリーを多少ツイストさせつつなぞっているだけのようにも思われた。はいこのシーンね、このシーンね、ノスタルジア、ノスタルジア。レッドピルがうんぬん。ブルーピルがうんぬん。結局、「マトリックスらしくはない、単なる過去作品のリブートではないか」と突っ込みたくなるような出来で、このメタ的なマトリックスの分析が、本作のその後の展開にうまく結びついていないように思われた(エンドロール後のCATRIXを除けば、だが。)。正直、作中でのこのマトリックスの分析は、なくても良かったように思われるし、無駄に尺を使って「我々はこんなにマトリックスを復活させることに気を遣っているんだ」という予防線を張っていたか、あるいは空虚な自己批判的分析をしていただけにすぎないようにも思われた。また、ワーナーから無理矢理マトリックスを作れと言われて私は十分悩んだんだ、だからマトリックスを復活させたこと自体は許してくださいという監督の打算が透けて見えるようにも思えた。本作の特徴の1つであるメタ的な要素は、機能不全であったように思えてならない。

 そんなこんなで本作に不満な点はあるものの、全体的に見れば悪くはないとは思った。それなりに見応えのあるアクションはあるし、空から人間爆弾が降ってくるシーンは斬新だった。キアヌリーブスとキャリー=アン・モスの演技だけでなく、新しく登場したバッグスやエージェント・スミス役の人の演技も良かった。NEOではなくトリニティーこそがthe Oneとして覚醒する点なども、時代を踏まえた良いアップデートだとは思った。世界ではなく、愛が語られるという意味ではシリーズの中で一貫しているし、自分が選択する/しないのバイナリーではなく、愛する誰かを信じることでも運命は変わっていくというのも、新たなテーゼとして良かった。また、この世界は現実か、仮想世界かというバイナリーではなく、(この世界が)フィクションであったとしても、それは感情によりバリデートされるんだ、それでいいんだというような映画のメッセージ込められているような気がして、力強かった。

 ただ、そもそもネオとトリニティーが簡単に復活したのは釈然としないし、というかネオとトリニティーの自己犠牲に心打たれていた約20年間を返せよという気持ちもあった。また、アクションは途中から延々とキアヌ・リーブスが敵に向けて手を突き出すだけになって徐々に退屈になってくるし(まるで魔法使いによる戦いを見ているようでもあった。)、新しいバレットタイムもジョジョのザ・ワールドの劣化版ではないかと思ってしまった。続編を意識しているのか、ぶん投げになった設定(結局機械と人間の戦いはどうなったのか、ザイオンに何が起きたのか)も数多くあり、本作だけでは考察のしようもなく、よく分からない。

 結局、本作はマトリックス・レボリューションで一旦終わった世界を復活させるためのあくまでつなぎに過ぎず、新たに紡ぎ出された謎自体は、次回作以降で解決されるんだなと思った。

 ひとまず、それなりの出来の本作で、マトリックスは一応復活した。問題はその先だ。次作目以降が面白ければ本作は必要な助走だったという話になるし、次回作以降がつまらなければ本作はただの蛇足だったという話になるだろう。次回作が今から不安で、同時に楽しみである。バイナリーではなく、重ね合わせの私の今の心境である。

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