本やらなんやらの感想置き場

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昔の殿様に、優越感を感じることがある。

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 美味しい麻婆丼を食べた話。

 やることが山積みになって、疲れ切った平日の夜。今夜もまた勉強しなきゃと思いながらの帰り道、ふと麻婆豆腐が食べたくなった。家で麻婆豆腐を作ることはできるのだけれど、何となく気が進まない。結局、近所の中華屋に行くことにした。

 その近所の中華屋は、特段の高級店という訳ではない。商売繁盛とまではいかないけれど、粛々と毎日毎日営業していた。

 店に入り、麻婆豆腐を探す。メニューを見ながら、どうせなら麻婆丼を食べてみようかと思い立ち、麻婆丼を注文。日頃頑張っている自分へのご褒美だと、餃子まで頼んでしまった。

 携帯を見ながら、料理を待つ。中国人の主人が中華鍋を振るさまを見つけて、ついついそちらが気になってしまう。黙々と待つこと数分、僕の目の前に中華丼が運ばれてきた。

 目の前に置かれたのは、通常の1.5倍はサイズがあるであろう麻婆丼。豆腐入りの中華スープまでついてきた。餃子を頼んだことを若干後悔しながら、麻婆丼の一口目を口に運ぶ。

 美味しい。

 そんな感想しか出てこない、ボキャブラリーが貧困な自分に半ば呆れつつも、どんどんと麻婆丼を食べ続ける。日本人好みの辛さに調節された熱々の麻婆に、口の中でとろけるような豆腐。いくら食べてもなくならなそうなその量に、僕の心は満足感で一杯になった。

 そこでやってきたのが餃子。焼きたての餃子に特有なパリパリとした食感を楽しみながら、僕は昔の殿様に、勝手に優越感を感じていた。

 昔の殿様というやつは、その時代の日本の人なら誰しも憧れる存在だったに違いない。金銀財宝や人々に取り囲まれて、大きな権力を持って。そんな昔の殿様に比べたら、自分はちっぽけな存在だ。大した財産も、たった一人の家来がいる訳でもなく、忙しいだけの日々を平凡に過ごしている。

 そんな僕でも、昔の殿様に優越感を感じられることが一つ。昔の殿様は、こんなに美味しい麻婆丼を、食べたいと思った時にすぐ食べることなんてできなかったに違いない。少なくともこの点においては、僕は昔の殿様よりもずっと恵まれているのだ。

 そんなことを考えながら食べていたら、あれだけたくさんあった麻婆丼がすっかりなくなってしまっていた。

 ごちそうさまでした。