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オリバー・バークマン「限りある時間の使い方」感想:私はこの本を3日で読んだ。

作品情報

原題:Four Thousand Weeks: Time Management for Mortals

作者:オリバー・バークマン

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想、あるいは書評

私はこの本を3日で読んだ。いつもと同じく、お風呂に入りながらできるだけのスピードで。早く読むということに、ある種の誇らしさを感じつつ。

私は、この本の主なターゲットである、いわゆる「生産性オタク」というやつであると思う。仕事の効率化ができる部分はないかいつも探しており、新しいサービスがあれば試し、メールはすぐさま返信する。Outlookのタスクリストには数え切れないほどのタスクが溜まっており、本棚には読むべき大量の文献が転がっている。

プライベートを振り返ってみれば、YouTubeは常に倍速で視聴する。テレビはCMが煩わしいし、毎週常に同じ時間にテレビの前に座るというのが苦痛であるので見ない。今度の週末は、次にどんなことをしようかと考え、突然見たこともない歌舞伎を見に行ったりする。常にTwitterを監視して、面白そうな記事はすぐに読み、面白そうな本はすぐに買い、家には本が積み重なる(そして、多くの本は読まれることを長年待っている。)。タイパ、タイパ。見知らぬ何かに、仕事でもプライベートでも追い立てられているような生活だった。

そんな私は、本書を読んで非常に感銘を受けてこれまでの生活を深く悔い改めて毎日瞑想を行うようになった、ということは特になかった。ただ、自分の考え方が少し変わったかもな、という気はしている。

本書のポジショントークであるようにも思うが、生産性の向上を追い求めても結局仕方がない、という主張については賛成できないなと思った。仕事が早くなれば周りから評価され給料が上がる、スキルが向上する、という話はともかくとして、単純につまらない仕事を行う時間はただそれだけで苦痛を伴うような気がするからだ。例えば、文章の文字数をカウントする仕事というものがあったとして、それを一日中行いたいだろうか。退屈な雑務よりも面白い仕事というのは世の中に数多くあるわけで、この観点からも仕事の効率化、時間の有効活用という考え方が間違っているとは全く思わない。

ただし、本書に書かれているようなある種の諦めは、自分の中にインストールできたようにも思う。宇宙視点で見れば何やっても同じ、という話は極論としても、やるべきことが終わったとしても次のやるべきことが生じ、タスクリストからタスクがなくなることは永遠にない、という考え方は自分としてもとてもしっくりきた。特に、自分の本棚をみてよりしっくりきた。1冊読み終える度に2冊本が増えていくような本棚を持っているような私にとって、タスクがなくなる日は永遠に来ないだろう。終わらないタスクリストはしょうがないし、そんなものなのだ。私が積読に一ミリも罪悪感を覚えないように、消化されないタスクリストに罪悪感を覚える必要はないのだ。

そういう気持ちがすとんと頭の中に降りてきた時、私は本書をゆっくりと読むことができるようになった。日々の料理の時間に、より集中できるような気がした。結局のところ、それらの時間を短縮しようと焦ったところで、それが実現できるかどうかもわからない。時間が短縮できたところで、Twitterを見るなりまた別の本を読み始めるなりだけなのだ。私の人生を後から振り返っても、急いだところで大きな違いはないだろう。1年前に2倍速で見たYouTubeの動画をほぼ何も思い出せないのだから、無理して焦る必要はない。

これが私が本書を読み通した後の感想であり、特に1つ前の段落部分については、まさに作者が読者に与えたかった感想そのものなのだろう。この本を執筆した作者に対し、お見事、という気持ちを抱く他ない。

今この記事を書いている私は穏やかであり、何も焦っておらず、幼少期の夏休みに戻った心地がしているのである。