作品情報
監督:サム・メンデス
評価
☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)
※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。
ネタバレ感想
本作は、擬似的にワンカットの映像*1であるかのように撮られた演出が効果的に機能している作品でした。
本作でこのような手法を選択した理由について、サム・メンデス監督は以下のように語っています。
観客には主人公2人と一緒に歩き、一緒に呼吸をして欲しかった。つまり、感情的な選択なんだ。2人との繋がりを感じてもらうためのね。2時間の映画1本をリアルタイム進行で描くというアイデアが浮かんだとき、どうやって観客を引きつけ続けられるか考えた。編集点があるたびに、観客とキャラクターとのあいだの距離は遠のいてしまうからね。それで、観客と主人公たちのあいだの距離を限りなく減らすために、ワンカットにしようと考えたというわけだ。
どう撮影した? 全編ワンカットで顔のアップも広大な風景も! サム・メンデス監督が語る『1917 命をかけた伝令』 | 映画 | BANGER!!!
リアルタイムかつワンカットのように進行するからこそ、私たち視聴者は主人公等と同じ時を感じ、映画の中に没入できる。主人公たちを少し離れたところで見ているかのようなこの演出と、第一次世界大戦の迫力のある映像は、非常に相性が良いものだと感じました。
さて、本作品のレビューを見ていると、特段のストーリー性がないという意見が目立ちました。確かに、本作ではそこまで劇的な展開が起こる訳ではありません。トムは、英雄的に戦って死んだ訳ではなく、視聴者が気づかぬうちに刺され、それが原因で命を落とします。また、物語の全体を見ても、主人公たちの活躍によって祖国が勝利に導かれる訳でもありません。主人公たちは伝令を届け、敵の罠から味方を救うことができたものの、救われた兵士たちの命が明日以降どうなるか分かったものではありません。戦争はただただ続いていきます。
主人公たちが伝令を届けた上官は、こう語っています。
また来週は別の命令が "夜明けに攻撃しろ"
この戦争が終わるのはー 最後の1人になった時だ
トムの死やウィルの献身は、確かに多くの命を救ったかも知れません。しかし、今回の物語は戦争という大局から見ればすぐに忘れ去られてしまう1ページに過ぎないとも言えそうです。このようなストーリーが物足りないというのも、ある意味で納得できます。
しかしながら、このストーリーが擬似ワンカットという手法と組み合わさったことで、本作が魅力的なものになっていると僕は感じました。
そもそも、戦争という大きな出来事と比較すれば、個々人の果たす役割は非常に小さなものです。戦争の戦略を考え、軍隊を指揮し、敵国を追い詰め、あるいは追い詰められる。そんな特殊な立場に居た指揮官は、前線の兵士たちに比べればほんのわずかです。多数の人々がいる前線では、あっさりと命のやりとりが行われます。そこには英雄的な活躍も、劇的なドラマもないこともほとんどだったでしょう。
本作で、擬似ワンカットでリアルタイムにトムとウィルの生き様を目にすることで、そんな前線の兵士たちの生き様が、ほんの少しだけ分かったような気がするのです。徐々に命の輝きが失われていくトムの今際の際を見て、すぐにトムの死から気持ちを切り替えなければならないウィルの姿を見て、過去と現在が一瞬だけ接続されたかのように感じるのです。
FOR LANCE CORPORAL ALFRED H. MENDES
1st BATTALION KING'S ROYAL RIFLE CORPS
WHO TOLD US THE STORIES
映画の最後、この文字列を見た瞬間、現実の戦場で散っていった人々に想いを馳せずにいられませんでした。
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