本やらなんやらの感想置き場

ネタバレ感想やらなんやらを気ままに書いています。

「南極料理人」─誰かにご飯を作ってあげたくなる作品

作品情報

南極料理人

南極料理人

監督:沖田修一

本作品は、沖田さんの商業映画監督デビュー作となりました。*1

なお、本作には原作があります。実際に南極で料理人をしていた西村淳さんが書いたノンフィクションです。

面白南極料理人 (新潮文庫)

面白南極料理人 (新潮文庫)

評価

☆☆☆☆(最高評価は☆5つ)

※以下は作品のネタバレを含むので、注意してください。

ネタバレ感想

 本作は、どこが気に入ったかはうまく説明できませんが、すごく好きになった作品です。全般的に、食卓を囲みながらにぎやかにワイワイ楽しくやっているのが、ほっこりするんですよね。

 本作のテーマについて一言で表現してほしいと質問された主演の堺雅人さんは、「『みんなでごはんを食べるとおいしいね』というシンプルなテーマを、もの凄~く丁寧に描いた作品」と表現しています。*2

 確かに、わいわいやっているシーンなどは、こういうテーマが表れているなとは思います。しかし、本作はもっと色々なものを表現している作品だなと思いました。堺さんは、本作のテーマを一言で表現せざるを得なかったので、それ以外にたくさんのことが描かれているのは当たり前っちゃあ当たり前ですが。

越境隊の苦悩

 その1つが、越冬隊の苦悩です。遠く離れた過酷な地での任務は、当然莫大なストレスをもたらすものでしょう。特に、自ら進んで志願したのではなく、辞令を受けて南極に行ったにすぎない人はかなり嫌だったのでしょうね。

 自分も、いきなり、来年一年間南極に行ってこいと言われたら、相当嫌です。コンビニもなければ渋谷もない。あるのは一面の雪原のみ。しかも長期間。途中主任が「帰りたいわー」と言っているシーンでめちゃくちゃ共感していました。

 そんな状況下で、越冬隊の癒しとなっていたのが食事でしたね。みんながエビフライと連呼するシーンが、それを象徴しているような気がしました。自分も、忙しすぎて一日の楽しみが食事しかないような時期があったので、こう食事を楽しみにするシーンがすごく共感できましたね。

 それにしても、南極での食事は、冷凍ものや保存食ばかりのイメージだったので、実際はこんなに様々な料理を食べていることを知って驚きました。下手すると、いや下手しなくとも、自分が普段食べている食事よりも豪華な気がします。こんな食事がでてくるなら、毎日の食事への期待も高まろうというものです。

南極料理人の仕事の過酷さ

 もう1つが南極料理人の仕事の過酷さです。何となく大変そうだなーというイメージがありましたが、この映画を見て自分の見込みが甘かったことを知りました。

 毎日毎日三食8人分のご飯を作り続ける。これだけでも大変なのに、使える食材は冷凍など保存がきくものばかり。そして、それらの食材の管理もしなければなりませんし、足りなければスーパーで買うこともできない。また、基地に到着する前の食材の仕入れも全て料理人が行うみたいですね。*3

 また、映画にありましたが、隊員たちのリクエストにも答えなければならないし、数々のイベントでは凝った料理を作らなければならない。節分の日に豆がなくてピーナッツで良いかと西村が言った時の微妙な空気が恐ろしかったです。

 さらに、挙句の果てには盗み食いをする隊員までいる。また、他の隊員は料理が作れず、自分が作る料理が生命線。

 こんな状況下で一年以上料理を作り続けるのは、本当に頭が下がります。一時期だけ毎晩のように家族にご飯を作っていたことがありますが、それでも僕にとっては大変でした。南極で料理人をする大変さは、想像を絶するものなのでしょうね。料理人中の料理人、究極のプロフェッショナルであるのが南極料理人なのだと感じました。

 こんな風に大変だなーと思っていたので、他の隊員が作った唐揚げを西村が食べるシーンが非常に感動的でした。こんなに大変だからこそ、他の人が作ってくれたご飯が身に染みる。

 ご飯を作るポジションになってしまうと、それが当たり前になってしまって、人からご飯を作ってもらうことがなくなる、というのは僕も一度経験したことがあります。こんな時、自分が作らなければ、あるいは料理に失敗すれば、おいしいご飯が食べられないのだと感じ、少しプレッシャーがかかります。そして、ご飯は毎日毎日作らなくてはなりません。終わりが見えません。

 そんな時、他の人に作ってもらうご飯は、非常に有り難かったですね。この時の経験を思い返しつつ、良かったな西村と思いながら心がぽかぽかしましたね。本当に、嬉しくてたまらないんですよね。こんな時。

 こんな唐揚げのシーンや、ラーメンのシーンなど、本作で描かれた幸せな食卓を見て、誰かにご飯を作ってあげたくなった作品でした。

 皆さんも、もし誰かに食事を作ってもらっているのであれば、その誰かのために今度は自分が料理を作ってみてはいかがでしょうか。きっと、幸せな食卓になると思いますよ。