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高杉征樹「老化研究をはじめる前に読む本 450本の必読論文のエッセンス」書評:わからないことがわかるようになる本

作品情報

書評と感想

本書は、わからないことがわかるようになる本だと思った。

前提として、私は本書を読むまで、老化研究について全く知識を有していない人間だった。大学も、老化研究とは全く関係のない学部を卒業している。そんな私にとっても、本書はなんとか読めないこともないレベルの本だった。分からない単語はぽんぽん飛び出すし、中盤、普通の英語の文章を読む方が簡単と思われるような箇所もあった。それでも、本書を読み切ることができたのは、ひとえに著者の文章から滲み出る、圧倒的知識による面白さによるものだろう。

正直、老化研究に詳しくない私にとって、本書の内容が正しいかどうかを判断する術はない。しかしながら、本書をとても信頼できると感じるのは、著者の経歴や数えきれない引用文献の数だけでなく、その学術的真摯さによるところもあると思う。

我々は、今まで知らなかった特効薬を知りたくなる生き物である。そのような知識を得られれが優越感をくすぐられるということもあるし、本を買うのはそのような素敵な知識を追い求めているからということもある。そのため、今まで知られていない万能薬はこれだと断言し続ける書籍の方が、よっぽど書籍としては売れやすいだろう。

しかしながら、本書は決してそんなことはしない。むしろ、「老化を抑制したいと考えるのであれば,今のところ,生活習慣や食事を見直すことが最も有効・確実・安全といえるでしょう。」と断言する(14頁)。また、本書は、「老化治療薬としての可能性が有望視される主要な物質」として、真っ先にビタミンDとビタミンKを挙げる。これらは、重要であることは間違いないものの、面白みのない結論と考えてしまう人もいるだろう。しかし、このように当たり前のことを当たり前に、データに裏付けて論じていることから、著者の高杉先生は学問に対して非常に真摯な方だという印象を受けた。

素人ながら、本書が価値のある書籍だと思った一番の点は、老化のメカニズムについて詳細に解説が書かれている点ではなく、むしろ現在の研究でわからないことは「わからない」と素直に書いている点である。「わからない」ことを「わからない」と書くことは、一見簡単であるように見えて、非常に難しいことだと思う。なんせ、「わからない」とされていることについて、信用できる論文が1本あることがわかった瞬間に、「わからない」という記載が誤りだったことが白日の下に晒されてしまうからだ。本書の随所に「わからない」と断言されていることは、逆説的に高杉先生が老化研究について、細かな最新情報までわかっていることを表しており、高杉先生に導かれて、現状の研究ではわからないことがわかるようになるというのが、本書の一番面白い部分であると思った。